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知的財産管理技能検定の活用

企業インタビュー


東京電力株式会社

                                                       本店 開発計画部 知的財産センター 運営グループ
 一級知的財産管理技能士 西島 勉 さん
多摩支店 設備部 設備総括グループ
二級知的財産管理技能士 田所 勲 さん
             


東京電力株式会社(本社・東京。以下、同社)は、2003年に「知的財産センター」を設立し、「知財活用促進」「知財リスク低減」を『知財活動の2つの柱』として、東京電力全体としての知的財産活動を中心となって積極的に行っています。
同社では、「受検に向けた学習を通して、社員に必要な知財問題発見能力が身につけられる」との考えから、知的財産検定2級取得を2005年より推奨、合格者は資格取得表彰対象としており、すでに2級だけで同社内で757名の合格者を輩出しています(2010年2月末日現在。知的財産センターに報告のあった方の数)。また、知的財産管理技能検定HPで公開している、個人受検申込時にとった任意アンケートによる「受検申込者数の多い所属先企業100社」中で毎回いちばん受検申込者数が多いのが同社です。
「東京電力株式会社」という大きな組織の中で、本店各部・店所(支店)に働きかけながら東京電力全体としての知的財産活動を中心となって推進する知的財産センターに所属する一級知的財産管理技能士・西島勉さん(以下、西島さん)と、知的財産センターと連携をとりながら、現場と密接した業務を推進する支店のひとつである多摩支店に所属する二級技知的財産管理技能士の田所勲さん(以下、田所さん)に、それぞれお話を伺いました。

電力の安定供給と知的財産との関係

――生活に欠かすことのできない電力ですが、その安定供給と知的財産とはどのように関係しているのでしょうか。

西島さん 「弊社では、電力設備の診断技術や、環境対策技術をはじめとする技術開発成果や、電気を皆さまのご家庭にお届けする設備の建設・運転、お客さまサービスなどに関わるノウハウを多数保有しています。たとえば、空気の熱でお湯を沸かすヒートポンプ式給湯機『エコキュート』(【図表1】)、電気自動車の急速充電器の普及・標準化など低炭素社会の実現を目指した取り組みです。他にも現場での課題を解決する施工法や工具類に関する発明もあります。たとえば、電線・電柱の上部に向かってツルが巻き上がってくるのを防ぐ『ツル巻き上がりガード』(【図表1】)というものがあります。」  


 【図表1】東京電力株式会社の技術例
◆空気の熱でお湯を沸かすヒートポンプ式給湯機「エコキュート」
エコキュートはヒートポンプの原理を利用してお湯を沸かします。ヒートポンプとは、太陽で温められた空気の熱を熱交換器で冷媒に集め、その冷媒を圧縮機で圧縮してさらに高温にし、高温になった冷媒の熱を水に伝えてお湯を沸かす仕組みです。空気の熱を上手に活用するので、投入した電気エネルギーの3倍以上の熱エネルギーを得ることができます。
東京電力株式会社「エコキュートのしくみ」アニメーション(http://www.tepco-switch.com/know/ecocute/system-j.html


◆「ツル巻き上がりガード」
電力供給は自然との共存・戦いが必要不可欠であり、「ツル巻き上がりガード」は、電線・電柱の上部に向かってツルが巻き上がってくるのを防ぐことができます。

                               


――「TEPCO」マーク、「Switch!」マークなど、御社の商標にはわたしたちにもなじみのものが多くありますね(【図表2】)。

西島さん 「技術上の成果や商標については、確実な出願による権利化を進めるなど、自社の知的財産を適切に保護し、活用しています。知財を保護・活用することで、自社実施権の確保、企業価値の向上、知財付加価値の拡大、ブランド形成に繋げています」。

                    【図表2】東京電力株式会社の主な商標          

                                    

「知的財産センター」の役割

――西島さんが所属されている「知的財産センター」はどのような組織ですか。

西島さん 「『知的財産センター』は、知的財産への意識をより一層高めるべく、2003年7月に本店内に発足させました。所員は現在約30名。東京電力の知財にかかわる「総括業務」「権利化業務」「渉外業務」「活用業務」を実施しています。
センターでは「知財活用促進」「知財リスク低減」を『知財活動の2つの柱』として活動しています。「知財活用促進」には、例えば、他社に先駆けて自社技術を特許出願することによる実施権の確保や、権利化した技術の東京電力グループでの活用促進があります。一方「知財リスク低減」には、例えば、他者権利を侵害しないための特許調査、自社技術の流出防止、他者著作物の適切な利用、適切な条件での契約締結があります。」
 ――東京電力といえば、総社員数約38,000名の大企業。13支店と45の支社を持つということですが、同じ会社内とはいえこれだけ大きな組織の中で知財活動促進を隅々まで働きかけて実行していくことは、とても大変なことではないでしょうか。
西島さん 
「まずは、役員や本店部長・店所(支店)長に、具体例を含めて知的財産センターから情報発信を行い、トップ層の理解を得て全社の知財活動を促進しやすいようにしています。実務面では、センター設立直後に全店の各組織に知財担当者1名+補佐を置き、センター内に『知財相談窓口』を設置しました。本店各部・店所からの知財よろず相談を受け、職場のニーズをよく把握した上でサポートを実施しています。その他にもセンター所員が講師となり、社内で特許研修等を行い、また年に数度、本店各部・店所の知財担当者を集めて報告会を行うなど、積極的にセンターと本店各部・店所との連携を図っています」。 

知的財産管理技能検定を活用、推奨している理由

――先ほどの「知財活動の2つの柱」を推進していくにあたって着目したことは何ですか。

西島さん 「『社員が煙(知財上の不具合)を発見できるようになることの必要性』です。例えば、直接知財に携わっていない社員にとっていちばん身近な知財のひとつとして著作権がありますが、自分が書類を作成するにあたって権利を侵害するようなことはないかなど、「これは調べたほうがよさそうだ」という『煙を発見できるようになることが大事』だと実感しました」。

――御社で知的財産管理技能検定を導入したきっかけは何ですか。

西島さん 「実際に受検してみて、実務に役立つ知識が得られると実感し、『受検に向けた学習を通して社員に必要な知財問題発見能力が身につけられる=煙が発見できるようになる』と考えました。範囲も広いですし、ハードルもそれなりに高いのでいい刺激にもなり、合格すれば達成感もあります。よって知的財産検定2級取得を2005年より会社として全社員に推奨し、合格者は資格取得表彰対象とし、現在まで活用しています。
これまで2級だけで757名の合格者を輩出しており(2010年2月末日現在。知的財産センターに報告のあった方の数)、センター所員のほぼ全員が2級に合格しています。1級合格者や弁理士試験合格者もいて、実務経験もあわせて組織として知財スキルは向上してきている状態です」。

支店にとっての知的財産活動

――田所さんは多摩支店に勤務されており、二級知的財産管理技能士でいらっしゃいます。業務は知財とどのような関わりがありますか。

田所さん 「多摩支店設備部で、自主保安に係わる業務(保安担当補佐)、官庁申請・使用前自主検査総括業務などを2年前から行っています。わたしが所属するグループは知財に関する業務を補佐する役割があり、各種設備情報が知財面で適切に扱われているか、『これは特許にならないか』などといった知財に関する現場からの問い合わせにも対応しています」。

――2級を受検したきっかけは何だったのでしょうか。

田所さん 「業務を改善する提案から特許出願に至ったアイディアについて、社内での報告会があり、技術部門の社員として興味を惹かれました。また、既に同じグループ内で3名が知的財産管理技能士資格を取得していました。会社全体としても推奨している資格ですし、『勉強するとわからないこともわかるようになるからぜひ受けてみたら』と薦められました。グループの知財業務を担当しているメンバーが不在のときには代わりに自分が知的財産に関する現場からの問い合わせを受けることがあります。問い合わせを受ける中で不明な点があったり、また、以前、業務の中で著作権保護に関する事項で迷ったことなどもあったので、知的財産に関する知識を身につけておきたいと思いました」。
西島さん 「支店自体が知財に関する取り組みに熱心だということは、わたしとしてもとてもうれしいです」。

東京電力内での知的財産管理技能検定対応

 ――全社に受検してもらうために、知的財産センターではどのような取り組みをしていますか。
西島さん 
「センターが中心となって、様々な取り組み・提案をしています。例えば、業務として『知的財産管理技能検定2級研修』を実施しており、わたしが講師を務めています。
「受検者にやる気になってもらう!」ことが一番大切だと思っています。そのためにはポイントをわかりやすく説明する必要があり、講師としてより高度な知識を身に付けるために、1級にチャレンジして合格しました。毎回過去問題の解説や知っておいてほしい事項などをパワーポイント等の資料を作成して研修を行っており、一回に4,50名の社員が集まっています。支店に出張研修に行くこともありますね。また、社内イントラネットに自社作成の教材やeラーニングを掲示して自己学習もサポートしています。さらに、職場の競争意識や社員のモチベーションを高めるために、職場別の2級合格者数をグラフにして、社内周知をするなどもしています」。

 

――田所さんも、2級を受検するにあたっては知的財産センターが発信・提供する情報を活用されたのでしょうか。

田所さん 「まず、知的財産教育協会編の2級3冊のテキストはわかりやすく良い導入となりました。その後、センターが開設している社内イントラネットの情報がとても役に立ちました。先ほど西島さんが紹介されていた過去問題の解説や勉強のポイントとなる事項をまとめたパワーポイントの資料はとても参考になりました。学びやすい環境が整っていてとても勉強しやすかったです」。
西島さん 「うれしいですね。過去問題の解説を書くのは、実はとても大変です(笑)。でも、解説を書くことは、自分にとっても非常に勉強になります。ぜひ社員の皆さんに活用いただきたいと思っています」。

知的財産管理技能検定取得後の効果

――田所さんをはじめ、御社には2級だけで757名もの合格者がいます。個人として、東京電力全体として、検定取得後の効果はどのように出ているのでしょうか。

田所さん 「検定受検のための学習をし、合格した後には、知財に対する意識が高くなり、インターネットで得た電子データの取扱いなど、他者著作物の扱いに特に注意を払うようになりました。設備情報を扱ったり著作物を利用したりする際に、問題ないかどうかチェックするようになり、日頃の業務を行う上で知的財産が身近に感じられるようになりました。また、職場で生まれた課題解決手段が特許出願できないかどうか意識するようになりました。そして、知的財産管理技能検定になってから多摩支店グループ内で初の合格者となったということで、受検しようとする意識がグループ内で高まり、今後、同グループ内でも数名が知的財産管理技能検定にチャレンジする予定です。身近で受検する社員へのアドバイスも行っていきたいと考えます。
また、職場ではノウハウ表記や秘密情報の注意喚起やデータが適切に使用されているか、知財の扱いに関して疑義が生じたなど、グループ内でディスカッションを行い、疑義の解消と職場全体の知財意識向上に繋げたいと考えます。いつか知的財産管理技能士がいない別の部署へ異動するかもしれません。そのときには自分が知財実務について中核となるなど貢献できればと思っています」。

――東京電力全体としてはどうでしょうか。

西島さん 「『知財活動の2つの柱』を実行するにあたって、検定の活用効果が出ていると実感しています。技術系に限らず多数の社員が2級を受検し、結果、知財に関する問題の早期キャッチができ、問題を未然に防いでいます。2級の知識があることから、意識が高くなっており、センター内に設けている「知財相談窓口」への問い合わせが急増しました。内容も知財相談窓口をオープンした当初は、『これはどういうものですか』など、何もわからない状態で相談してくるというケースが多かったのですが、合格者が増えるにつれ、『このように考えたのですが、センターとしてはどう思われますか』など、何かを自分でやってから相談に来るケースが多くなりました。『守秘義務契約の雛形はありますか』から『守秘義務契約案を作成したのですが、ここのところを確認いただけますか』などです。知財意識・活動が社内に浸透してきた表れだと日々実感しています。イントラネットでも、社員の意識の高まりにあわせてより応用的な情報を掲載するようにしています。センターとしてもレベルアップして、高度な相談に対応していきたいと思っています」。
――知財意識が高まる社員が続々増えている中、今後の社内での知財活動への取り組みについて教えてください。

西島さん 「自社、他社(者)の知的財産をともに尊重し、これらを有効活用して、自社と社会の  ために役立つよう知財活動を根付かせたいと考えます。弊社の中でも、職場ごとに温度差があるのは職務の違いなどからある程度はやむを得ないとは思っていますが、そこは見極めつつもやはりビジネス常識としてまずは各職場ともに知財に関して一定レベルへの向上を図りたいと考えます。知的財産管理技能検定2級合格者が各職場に在籍するようになれば、達成は早いかも知れません(笑)。これからも様々な取り組み・提案をしていきながら、『知財活動の2つの柱』を全社で推進していきたいと思います」。

 

取材:2010年2月4日 東京電力株式会社知的財産センターにて
聞き手・文:知的財産教育協会