第5回 2010年8月13日(金)

「コンテンツ産業再興の鍵を握るのは、知財がわかるプロデューサー」

株式会社TBSテレビ 編成制作局
メディアライツ推進部 担当部長 田中 康之氏

私は、あるきっかけから著作権などの権利関係、いわゆる知財の勉強をしなければならないと危機感をいだきました。
そのきっかけというのは、映画『陰陽師』と『陰陽師II』のマーチャンダイジング(商品化権)の仕事でした。映画『陰陽師』は2001年公開で、主演は狂言師の野村萬斎さん。当時、私は事業局で邦画ではこれまでにないアイテム数の商品開発に携わっていました。出演者の映像や写真の利用は製作委員会が管理していたのですが、映画関連の商品は宣伝目的だったので、出演者の映像や写真を使うのは基本的にフリーだったんです。

しかし、2年後の『陰陽師II』では違っていました。出演者の映像や写真の管理は、前作同様に製作委員会が行っていたのですが、ある出演者の所属事務所から映像写真の使用料を求められて、困惑してしまいました。「宣伝は宣伝で協力しますが、商品を製作して、そこに映像や写真を使うのであれば、それは別途費用が発生します」。事務所からの主張を受けて、「これからはライツのことを勉強しないとマーチャンダイジングはできないな。時代は変わったんだ」と実感しました。

放送事業は、総務省の許認可事業であり、「電気通信事業法」「放送法」「電波法」の規制法がある一方、ソフトであるコンテンツに関わる法律は「知的財産法」であり、特に「著作権法」が重要となります。そして、急速にインフラのIT化やコンテンツのデジタル化が進む中、コンテンツのマルチユース・マルチウインドウが拡充し、ビジネスモデルも多様化しています。今やコンテンツビジネスに携わるには、ビジネスと法律、そしてテクノロジーへの理解が不可欠となったといえるでしょう。

制作プロデューサーと一緒にコンテンツビジネスの設計図を描く人材を!

制作プロデューサーと共にコンテンツ制作を指揮し、リーガルマインドがあって、新しいテクノロジーや会計・財務も理解できる人。これはまさに国が育成しようとしているコンテンツプロデューサー像です。これからは、社内外の隔たりなく活躍する、本物のコンテンツプロデューサーが求められています。

私は、自分が通った大学院で「コンテンツマネジメント特論」の講座を担当して3年目になりますが、受講生たちの中には、自らコンテンツプロデューサーとして活躍している方もいます。彼らは、単にコンテンツを制作するだけでなく、それを流通させる仕組みも考えることができます。つまり知財を知っているとコンテンツビジネスの全体設計図を事前に描くことができるわけです。

テレビ局の制作プロデューサーにもコンテンツプロデューサーを目指して、積極的に知的財産権法や会計・財務の知識を学んで欲しいと考えています。制作プロデューサーも、将来はマネジメント側に立ったり、あるいは独立してプロダクションの社長になるかも知れません。その時に、コンテンツプロデューサーとしての活躍が期待されるのです。知的財産権法や会計・財務の知識は、欠くことのできない個人の身に付いた知的な財産なのです。

日本のコンテンツ産業は、現在の7兆円規模から、2020年には20兆円規模に拡大させると経済産業省の研究会は推定しています。知財のわかるコンテンツプロデューサーが育ち、コンテンツの創成からコンテンツマネジメントが可能になり、流通においても改革が更に進めば、日本のコンテンツ産業の市場拡大がより現実になるでしょう。


田中 康之 氏 (株式会社TBSテレビ 編成制作局 メディアライツ推進部 担当部長)

<プロフィール>

1960年、京都府京都市生まれ。石油会社勤務を経て、1994年、株式会社東京放送に入社。テレビ営業局、事業局でコンテンツのマルチユース事業に携わり、編成局コンテンツ&ライツセンターメディアライツ推進を経て、現職に至る。主にコンテンツのライツマネジメント業務に従事。
金沢工業大学客員教授。金沢工業大学大学院工学研究科知的創造システム専攻修了、東京大学大学院新領域創成科学研究科人間環境学専攻 メディア環境学博士後期課程在学中。
著作権法学会正会員、日本工業所有権法学会正会員、日本知財学会正会員。青山学院大学法学研究科附置ビジネス ロー・センター特別研究員。